通勤ミュージック~0910182009/10/18 16:20:16

アバド/LSOのメンデルスゾーン全集も、いよいよ最終回。

*交響曲第4番「イタリア」、交響曲第5番「宗教改革」、吹奏楽のための序曲

ますは「イタリア」。
何度も聴いてきた音盤だけど、改めてその艶やかさに感心。

1楽章は、はちきれる解放感(=開放感)より、むしろ幸せをしみじみと噛みしめるような歌わせ方が味わい深い。
そしてその幸せ感は、むしろ音量を落としたとき際だつ。
この曲だけじゃなく、微音への心配りはアバドの最大の美点と言ってもいいかも。

繰り返される3度音型「A-Cis-A」の呼び交わしの上品さ。
提示部のリピートが冗長に感じない。
もっと味わいたくさせる薄味の魔力! 関西の料理と一緒や!(笑

展開部の短調で見せる翳りのグラデーション。
更にそこに交わされる「3度」の重なり。
それがあるからこそ、再現部へと向かう膨らみがぐっと豊かになる。
その再現部は提示部とは違う“顔を上げた”喜び。
でも決して羽目を外さない。

3楽章のトリオでのスピード感。
絹のようなメヌエットのしなやかさとの対比。

4楽章の疾走感。それまでが上品だっただけに際立つ。
しかし決して崩れない。弦の高低での応答のクリアさ。
たぶんもっと煽ることも出来るのだろうけど、敢えて余力を残して終わる、その潔さ。
トスカニーニ盤のような息詰まるほど輝かしい太陽の光に満ちた土地とは違う、どこまでも朗らかで美しいイタリアがそこにある。

「宗教改革」って、やはり多くの人にとっては3・4番に比べると一等地味なのかしら?
個人的にはその両者より好きなんだけどなぁ。
その良さを教えてくれたのは誰を隠そうレニーなんですが。(隠してない。笑

直裁なトスカニーニももちろん良いし、強烈なドライヴでグイグイ引きずり回すマゼールの若き日の音盤がこれまた痛快。

顧みてアバド。
期待通り、ドレスデン・アーメンのまっすぐな美しさ。
北ドイツ的「峻厳さ」というよりも、とにかくもう純粋な清らかさ。
ゆえに1楽章は全体に抑えた解釈で、終結なんかもう少し劇性があっても……と思うけど、それはお門違いか。

2楽章もいたずらに浮かれたりしない。愉しさを静かに噛みしめるような。
3楽章の内省感が強いのは当然で、間奏曲的な扱いにはまったくなっていない。

それだけに4楽章の入りの自然さが素晴らしい。
あざとさやこれ見よがしな感の全くない、こちらも思わず口ずさんでしまうコラールの調べ。
ジワジワと宗教心が胸に広がっていくように、駆け上っていくコラールのテーマ。
押しつけがましさではなく、まさに「帰依」という言葉がぴったり来るような宗教的な感動。

フィルアップの「吹奏楽のための序曲」は初聴き。
ゆっくりとした序奏に続く軽快な主部。
クルクルと駆け回る子鹿のようにとにかく快活・明瞭な響き。

一聴すると「軽い」曲に聞こえるけど、自分がブラスっ子だからよく分かる。
これはとんでもなく難しい曲だ!!
テクニックの難度以上に、ごまかしが利かない「怖さ」がある。
単純明快であることは、夾雑物の入る余地を一切与えない。
1ミリでも汚いモノが入れば、その汚れが全体を浸食してしまう……。
そんな感じだと言えば伝わるだろうか。

通勤ミュージック~0910092009/10/09 19:50:38

第2弾は一挙に2枚。
てか、2番について余り書けないからなんだけど。(苦笑

*交響曲第2番「賛歌」
コネル、マッティラ(ともにS)、ブロホヴィッツ(T)、LSO合唱団

うーん。
1番と違って、少し歯ごたえのある曲だなぁ、というのが偽らざる感想。
決して難解とは思わないけど、やっぱり「言葉の壁」は大きなネックかな。

シンプルな力感に満ちた冒頭のコラール主題が、全曲を通じて再現されるところなんかは、個人的には好みなんだけど、いかんせん曲をつかみ切れていないから、とにかく長く感じる……。
それこそシューベルトの「グレイト」ではないけれど、ある意味天国的?な長さ。(苦笑
もっともっと聴きこまないと、魅力が自分に入ってこないんだろうな。
要勉強!

*交響曲第3番「スコットランド」、序曲「美しきメルジーネ」、トランペット序曲、序曲「ルイ・ブラス」

スコットランドは以前から所有していたので、序曲のみ初聴き。
久しぶりにアバドのスコッチ聴いたけど、いやあやっぱ良いわ。

1楽章第2主題の上品な泣き。
他の曲でもそうなのだけど、慎ましやかでメロウな表情がメンデルスゾーンにぴったり。

薄味ゆえに、耳と心に染み渡っていく。
それこそ関西風の味付けのよう。
クレンペラーのような枯淡の境地ではなく、もっと濡れている。
そして最後の追い込みの木管の響き!人間の声のように鳴りきっている。
その後の後ろ髪引かれる名残惜しさ。

2楽章の「普通の」愉しさの意義。
これまたクレンペラーの遅い遅いテンポによる夢幻は求めるべくもないけれど、それとはハナから方向性が違うから、比べても無意味。
木管の愉悦、弦の旋回する響きに身を任せる愉快さ。

ただ、3楽章はその薄味が若干物足りなさにつながっているかな?とも感じられる。
ここはもう少し濃い味付けを望みたいところ。

……と書いてみたが、4楽章冒頭の勢い込んだフレーズとテンポに瞠目。
もしや、これを引き出すために敢えて3楽章を抑えていた??
だとすれば、アバドも結構業師だね。(苦笑

3つの序曲もまさに“過不足ない”ことが一番の美徳。
特にルイ・ブラスの品のある劇性には感心させられる。

通勤ミュージック~0909182009/09/18 19:55:36

2009年も後半と言うのになんだけど、メモリアルイヤーということで、メンデルスゾーンの交響曲全集を聴く。
もはや鉄板とも言うべき、DGのアバド&LSO盤。
以前から3&4番は持っていたのだけど、全集購入で中古屋へ。(苦笑
ちなみに1番、2番はこの盤が「マイ初演」になる。

*交響曲第1番、弦楽八重奏曲~ スケルツォ、「真夏の夜の夢」序曲、序曲「フィンガルの洞窟」、序曲「静かな海と楽しい航海」

上記の通り、1番はマイ初演。
だけど、すごく耳(と心)にスイスイ入ってくる。
理屈ぬきにいい曲。

この若書きでさえ、もうすでにメンデルスゾーンそのもの。
細胞の隅々まで染み渡っていくような愉楽の響き。
美しく、楽しく、心地よいという事はなんと素晴らしいのか。
深々とした響き。遅めのテンポから見えてくる音の粒立ち。
木管や内声の思わぬ響きにいつも驚かされる。
夢うつつの境をさまようような浮遊感。

悲痛な青春の吐露のような冒頭の主題から心をわしづかみにされる。
アバドらしく、節度を失わない歌わせかたのおかげで、曲がすんなり体に入ってくる。
さらりとした中に静かな歌が溢れる2楽章。
3楽章の抑えた中にも滴る味わい。
そしてキリリと引き締まった終楽章フーガの張力。
モーツァルトの25番を彷彿とさせながら、“疾風怒濤”感よりもあくまで上品さを失わない短調。
古典の品格の上層にしなやかに乗るロマンの歌。

弦楽八重奏のスケルツォ。
管弦楽編曲版のこの曲、大好き。
メンデルスゾーンって、ベートーヴェンとは違う意味で「スケルツォの達人」だと思う。
その端的な証拠とも言える一曲。
いつも愛聴してるのはトスカニーニ盤。

アバドには、確かにトスカニーニのピリリとした肌刺す感じはない。
だけど肩の力の抜けた飄然さ~吹き渡る春風のような~はもしかしたら、この曲の性格的にはむしろふさわしい形なのかもしれない。

好きと言っておきながら、実は恥ずかしながらオリジナルの弦楽八重奏は未聴。
まだまだ勉強が必要ですな。(苦笑

「真夏の夜の夢」序曲。
グイグイと意志的な前進性。だけど暑苦しくはない。
クレンペラーの夢幻感やプレヴィンの穏やかな語り口とも違う、溢れ出す物語そのものを眼前にさらけ出すような喜ばしさ。
とにかく爽快なまでの意志。これはこれでありだと思う。
そして何より、せっかちになるギリギリで踏みとどまる力!
巧みなテンポ操作は、歌うところでグッと落としても自然さを失わない。

序曲だけではもったいない! 他の曲も聴きたい!
……BPOとのライヴ(ソニー盤)も買わないと。

アバドとメンデルスゾーンとの相性の良さを、ずばり見せてくれる「フィンガル」。
陳腐かもしれないけど、音だけで、まさに風景が目に浮かぶ。
これが波しぶきでなければ何なのかと言わんばかりの、寄せては返す弦のさざなみ。

「静かな海と楽しい航海」も同様。
どちらかと言えばちんまりと地味なこの曲が、この上もない上品さと高貴さを持って艶々と輝く。